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◆ 第5回 | 主なテーマ | 音の話(マニアックです・・・) この放談は2004年10月のデビッド・ラッセル来日の前に行なわれたものです |
な | サントスは板薄いのですか。 |
さ | そうでも無いと思う、薄いサントスというのは、削ってあるんだよ。キズを隠すためにどんどん修理で削っていってしまうという事があるから。 |
ま
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力木の配置が解るような物もあったね。 |
な | えっ、そんなシースルーみたいな・・・ |
さ
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そう、あばらが出ている様な、がりがりの・・・ |
ま | 裏側に力木のついている所にカンナかけてしまうから |
さ | そう、浮いてきてしまう。持ち込まれるサントスで、削られてしまって元サントス?みたいなものも沢山見ています。 |
ま | サントスはやっぱり、スペインでは、日本でもそうだけど、名前が有名になってしまった。 |
さ | もう、プレミアですね。 |
ま | そう、サントス・エルナンデスと名前がつけばね。だからぼろぼろの物をもう一度組み立てたりしたものもある。一部だけオリジナルとか。フレタでもすごいの見たことあるよ。完全にぼろぼろになったものを全部再塗装してね。弾きキズの上から塗ってある。ということは削っては無かったということか。あれはもう使える物では無いと思ったけどね。62、3年の物だったけど。実は僕の楽器の1番違いで、変わり果てた兄弟に会った気持ち・・・。 |
さ | フレタは結構いたんでいるもの、多いですよね。 |
ま | そう、フレタはプロが使うからね。傷むよね。意外とプロが使わないのがアグアド。アマチュア愛好家が大切にしている。だから結構いい状態の物が残っているね。ただ、フレタの方が今の二世まで含めて通算するとアグアドの三倍くらい作っている。 |
さ | 数多いですね。 |
ま | だからそういう意味ではいい物もあるのだと思うけど。率としてはフレタの方がプロに使われて傷んでいる。 |
さ | 実際に道具として使われていることが多いですからね。 |
ま | プロのギタリストが毎日練習してコンサートで使えば、10年もすればかなり・・・まあ、そういうのに一番耐えるのはハウザーじゃないのかな。 たださっき云ったような削るような修理をしてしまうとだめだけどね。そこにいくと、やっぱりブーシェって云うのは、あまりプロの道具という感じではないね。 |
さ | 「ま」さん、仮にですよ、ステージ弾くとしたらどれを使いますか? |
ま | フレタかも知れないよ。・・・うん、フレタだろうね。 |
さ | ステージではね。例えば、タワーホールくらい良く響く中ホールならこれとか、大ホールだったら・・・とか。 |
ま | ホールに関わらず、フレタかアグアドだね。・・・結構疲れないんだよね。楽器自体が歌ってくれるし。 |
さ | あのアグアドはまた能弁なアグアドですものね。 |
ま | うん、やっぱりハウザーの方が弾き疲れするね。ブーシェもやや疲れるところがあるしね。そうやって弾くにはやっぱりアグアドとフレタはいい楽器だよ。一番はフレタだろうね。ハウザー、ブーシェ、ロマニロスで弾く自信はないね・・・。 |
さ | う〜ん、自信がない・・・。 |
ま | 自分の音を自分で聴けないからねえー。それがどう反応しているか解らないけど、これだけは誰もやったことはない。 |
さ | 録音して聴いても違いますからね。 |
ま | このブーシェもさっき君が弾いているのと、自分がここで弾いているのとまた違うからね。こんな僅かな距離でも違うから。ブーシェって意外と人が弾いているのを聴く方がいい音がするんだよね。 |
さ | 自分で弾いているのはあまり気持ち良くないと・・・ |
ま | かと思うと、ステージでブーシェが鳴ったという事もあまり聞かないような気がする。意外に鳴らなかったという話は聞くけど。弾き手のタッチもある、割と軽い方がいい。 |
さ | ・・・(某ギタリスト)さんの持っていらしたブーシェが最後の方、とてもいい音がしていましたね。 |
ま | うん、あれはいい音だった、シャープで。今まで見たブーシェで一番シャープ。 |
さ | 珍しく遣い込んで本当にいい音していたのに・・・。 |
ま | 今、なに使ってるの? |
さ | ・・・です。でも彼はああいう音が好きなんですよ。 |
ま | 音の好みってあるんだよ。いろいろ持ち替えているように見えても、本人の中では連続している。 |
さ | ・・・の好みと一緒で・・・。 |
一同無言・・・戻って | |
な | 「ま」さんならバーンと云うような・・・ |
ま | バーンというより口でいうならコーンとかツーンとか、そう、割とふんわり楽器は持っていない。 |
さ | 「ま」さんの独特の見方で、これは高音が締まっている、ではなくて、細いと仰いますね、普通今の若い世代の人たちは太い音を好みますね。ポーンという、あれは「ま」さんの独特の選択眼ですね。 |
ま | 若い時からそうだね。 |
さ | つーんというかしゃりんというか、高音が。 |
ま | でね、以前は低音も細い方が好きだったのだけど、しばらく前から低音は太い方がいいかな・・・と。 |
さ | 太いベース・・・ |
な | がっちり支えられている様な感じですか? |
ま | そう、そう、太い低音に細い高音、で、伸びると・・・ただ、立ち上がりは絶対良くなければいけない。 |
さ | 反応がいいと云う事ですね。 |
ま | 立ち上がりが良くて、伸びるというのは、割りに相反する要素なんだけど。 |
さ | そうですね、相反します。 |
ま | 片方を追求すると、片方がだめになる。でもブーシェやアグアドは両方ある。サントスなんかは、立ち上がり型だよ。 |
さ | 立ち上がりはいいですね。 |
ま | そう、立ち上がりに特徴がある。あまり余韻はない。でもビブラートは効くんだ。 |
さ | 決定的なのは、アメリカの一連の楽器がトンと出て・・・トンと終わる、余韻がない・・・。 |
ま | 余韻の前に次の音を弾くと。忙しいなあ。 |
さ | 次から次へと音を洪水の様に鳴らしていくと・・・ |
ま | それに音がちょっと違う、艶がないというか。シャルバトケもややその傾向ありか。 |
さ | シャルバトケもベースはやや太い感じなのでけど、ポンという感じで音の伸びがやや少ない感じですね。一連のカズオサトウなどもね。「ま」さんならそう仰ると思う。多分ややファットな感じ、太いというよりは。 |
ま | 艶がね・・・無いというか。 |
さ | スモールマンとかあの辺りも似ているのですが、ちょっと影が、かさかさした感じなんですね、音色に潤いが無いというか。それは僕も少し感じます。僕は弾いていてその辺りの楽器の良さは出せないですね。自分としては合わないかなと。合う合わないはあるでしょう、若い人が弾いているといいんですよ、聴き手としては。ただ突き詰めていくと根本的に音に潤いが無いかな、となるかも知れませんが。 |
な | ダマンは・・・? |
さ | ラッセル、バルエコあたりが弾いているのを聴くと、どうも暗くて。 |
ま | 暗い? ダマンというのはまだよく知らないんだけれど。 |
さ | どうも翳るというか、いい意味の陰影ではなくて、暗い。 |
ま | 暗いという表現は自分ではあまり使わなかったんだけど、言われてみるとスモールマンもあのあたりも暗いんだよね。音が。グレー。 |
さ | で、艶も無い感じがする。ラッセルとも話した事がありますが、音色はギルバートの方が好きと。 |
ま | ギルバートはもう新しいのは無いのでしょう? |
さ | もう今はウィリアムという二代目になりましたね。彼(ラッセル)のはジョン・ギルバート。 |
ま | 前にも云ったけど、プロは持ち替えの効く楽器でないといけないから。これがだめになったら、もう次はないというのではいけない訳だから。だから次も確保できる物を置いておかなければいけない。それに慣らしておかなければいけない。そういう意味では、こういうブーシェみたいなものはだめな訳だ。メイン楽器として使うというには。ブーシェ、アグアドみたいな物は弾き潰してしまったらそれまでなので。だからハウザーみたいに弾き潰れにくいものを探すか、潰しても次々と出てくるものとかね。 |
さ | バルエコ、ラッセルもダマンですが、ダマンはあまり色がないと思うのですね。色彩感があるというより、モノトーンの楽器、二人とも結構モノトーンの音楽をする人だと思います。 |
な | 僕もそう思います。 |
ま | バルエコはそうだと思うけど、ラッセルも? |
さ | ラッセルもギルバートですごく輝かしかったので、彼のいいところはそれで、マイナスイメージではないモノトーン、クリスタルな透明な音楽だったから、ダマンによって濁ってしまったというか、彼のいいクリスタルなきらきらとしたものが、光が当たって作曲家の持っていた力で彼が色をつけなくても輝いていた。ギルバートと彼のクリスタルな感じに光があたってきらきらしていた感じが、光が無くなってしまったというか、くすんだように作るので一層モノトーンの様に聞こえてしまう。ヨーロッパでは賛否両論ですが。 |
な | 目指す音楽と楽器が合ったという事なのですかね。 |
さ | バルエコは楽器を変えてもあまり変わらなかったですね。ロバート・ラックとマティアス・ダマンとは近い楽器だと思うのですね。でもラッセルは全然楽器の個性も変わってしまったから、似ているのはバランスの良さとか、低音がどーんとして高音がぴっとしてという様な、音量はあるけれど、低音がどーんと鳴って高音がぽーんと鳴る・・・つーんと来ない。 |
ま | そういえば新しいフレタもそうだね。 |
さ | そうですね、ちょっと鈍重・・・。 |
ま | 口で云うとそうなってしまうかも知れないね。今は昔と比べてコンサートの数もずっと増えているし、あちこち飛んで歩くから楽器の消耗も考えなくてはいけないしね。 |
・・・つづく・・・
この放談は2004年10月のデビッド・ラッセル来日の前に行なわれたものです
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