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◆ 第13回 | 主なテーマ | 「音」をテーマに、少々過激トークもありますが・・・ まぁ、放談ですから |
さ | いずれにしても、そういう嗜好品の世界には、まずお金で判断というジャンルはれっきとしてどこにもありますね。楽器にもあるしオーディオにもあるし、選ぶ物ってワインだってそうだし。まず一番高い物持ってこいという世界はどこにもありますよね。 |
ま |
あるねえ。 |
さ | でも本質とは離れて、それも必ず一つの大きな本質でしょうね、それもありという。 |
ま | そういうマーケットがあって、 |
さ | あっ、そうです。本質ではなくてマーケット。マーケットがあるのですね。 |
ま |
ギターでもなんでも、それを商売として商う所があるのだから、見方によってはそれが一番重要かも知れない。何がいい、のではなくて、何が一番高くて、最高級にランクされているかということ。あとはブランドというのは安定供給ができるということ・・・安定供給は大事な事だと思う。 |
さ | こういうハンドメイドの物の安定供給って・・・逆に不安定だから商売になるという事もあるかも知れない。それはプレミアムと呼ぶのかな? |
ま |
例えば急にケヴィン・アラムというのがブランドとして知られてしまったとしてね、あちこちから声をかけられたとしてもない訳でしょう? 私もあれがほしいと云った時に。 |
か | 同じ物はないわけですしね。 |
ま | 村治佳織さんのような人が有名になってロマニロス弾いて、あれと同じギターが欲しいという人はいるはずですよ。 |
さ | ええ、それは大いに・・・ |
ま | で、ロマニロス、それがいつもあるかというとそうではない。それにこれは頭の格好が違うからいやだとか・・・(ロマニロスのヘッドデザインには大別して2種ある)。ロマニロスはやっぱりあれ以来上がったでしょ? |
さ | やはり佳織ちゃんが使ってからでしょうね。日本での異常な人気と海外でもマニアをくすぐる何かがあるのですね、あの楽器には。 |
ま | そして適度に少ない。 |
さ | うんうん。 |
ま |
世の中のブランドっていうのはある程度安定供給が条件なの。 |
さ | それは絶対にそうですね。 |
ま |
大きなデパートに行けば必ずあるというような・・・でもギターというのは,そういう点ではやはり人口も少ないし、そういう事はありえないんだね。 |
さ | そうですね。 |
ま | これもブランドというのは抵抗があるけど、ヴァイオリンでストラディヴァリウスってあるでしょう。あとガルネリウスって云うのがあるのですよ。値段はどちらが高いとも言い切れないし、有名ヴァイオリニストはどちらを好むとも言い切れないのだけど。でもストラディヴァリの方がずっと知られている。それは本数が何倍かあるから。 |
か | で、ストラディヴァリの方が本物がずっとある? |
ま | 製作期間が長くて、作った数が2000とか3000とかあるし、残っているのが300とか。それは人によって、それこそいろいろな偽物も混じっているから見方が違うのだけど。でも2000位作ったのは間違いないらしい。ガルネリというのは数百とか。そこに行くと、ブーシェの154だとか、ベルサール・ガルシアの81だっけ? |
さ | 80・・・、83ですね。 |
ま | 83か。だからそういう物は全世界的流行という訳にはいかないものだし。何かでブーシェが急に有名になってね、資産家がオレも欲しいと言い出した時にね。何しろ世界中で市場には1年通して何本出るかという、全然出ない時もあるし。 |
か | でもストラディヴァリみたいに2000本も作ったっていう事はあり得ない訳じゃないですか。ギターの場合は。 |
ま |
ギターで2000・・・、でもワイスガーバーは2000位作ったっていうね。記録によると。 |
か・な | そんなに! |
ま | いやほんとかどうか。 |
か | 当然それ工房ですよね。 |
ま | かも知れない。でも初代リヒアルト・ヤコブの時はどうなんだろう。 |
さ |
あのマルキノ何とかいう、なんでしたっけ、ヴァイオリンをいっぱい生んだ・・・ |
ま |
マルクノイキルヘン。 |
さ |
あの辺りですよね。何百年も前の世代から楽器を作っているという。 |
ま |
弦楽器の街ですよ。マーチンもそこの出身。 |
さ | やはり一人で作るという習慣ではないですね。 |
ま | そうだね、ギルドとマイスターの国だから。 |
さ | 何人かで作るのですね、ハウザーだってそうでしょ。一人で作るという事ではないですね。 |
か | そういう風になっていればその数は可能だという事ですね。日本の製作家の事をちょっと考えたものですから。 |
ま |
そう、一年に6本とか聞くとね。 |
か | 一年半待ちとかね・・・ |
ま | やはりギターの方が手間がかかるのかね、ヴァイオリンはこれほど少なくないよ。 |
さ | 一人で作って・・・いや、音の話をするにはいかにも資料不足なのですが、他の楽器に関してね、例えばヴァイオリンなんか無量塔蔵六(ムラタゾウロクと読む)さんとか、ああいう人達は一人で作っているのか、アシスタントがいて作っているのか分からないのですが、この辺りはオープンには出来ないかも知れないけど、日本の名工と云われている、あの人もコマーシャル、ニッカのコマーシャルに出たでしょう。でも、今プレイヤーで日本の新作を使っている人っているのかな、と。 |
ま |
いや、ヴァイオリンは古楽器が沢山あるから、新しく作らないで修理だけの人も多いらしいよ。 |
さ | 修理で食べるのですよね。修理代がべらぼうに高い。 |
ま | で、修理をしたという事が自分の実績になる。修理をした事によって色々な楽器の事を知ることになって、その知った情報がまた財産にもなるし、お金に替わる事があって・・・つまり鑑定書を書く立場になるかも知れない。 |
か | じゃ、例えば絵画の修復とか。 |
ま |
そうそう、それです。 |
か | そういうのを専門にやっている人もいるわけですね。 |
さ | 作る本数は分からないですね。でもギターでも一人で作っていても年間7〜80本作ってしまう人もいるのです。 |
ま | うん、河野さんが昔書いていた。普通に働けば月に5本は出来てしまう、と。 |
さ | これは面白い事を云ったのですが、野辺正二さんが、職人というのは数が少ないことを威張るものではないと、こつこつ作って月に5本できてしまうという河野さんは正にクラフトマンシップなのでしょうね。月に1本か2本しかできないのは腕が悪いと。職人という意味で行くと、野辺さんはそう仰っていましたね。 |
ま | うん、それは事実だろうね。全く別の話なんだけど、大工の手間賃って坪いくら、でしょう? |
か | えっ、そうなんですか、一日いくらではないですか? |
ま | いや、一日いくらでなくて、一坪仕上げるのにいくら。 |
か | 見積もりなんかだと一日いくらみたいな。 |
ま | いや、下請けに出したりするような場合は取り方でそうなるのだけど、例えば坪当たり10万円で引き受けると。もちろんいろいろな工程があるけど、10坪作るのにある人は2ヶ月かかり、ある人は2週間でできてしまう。すると2週間の人は4倍仕事ができるから、そこで大工の収入の差ができる。腕がいいのは早くて収入も多い。でもそう云われると確かに分かってね、腕のいい人を雇うと一日千円が一万円になるのではないと。 |
か | なるほどね。 |
ま |
もちろん期間に応じた物も別の計算の仕方であるかも知れないけど。何か作るのに一個いくらでとるか、一時間いくらでとるか。という。・・・隅田川の花火大会でね、海苔巻きを山ほど巻いた話があって、1時間に何本巻けるかと云う、普通の一人前の職人で150本、早い人で180本。ところが一緒に働いていた何とかさんは200本巻きました、と。でもこの場合は残念ながら寿司屋の職人は一日いくらだと思う。でも売り上げは上がるか・・・でもその職人が直に売るのではないから、親方の収入が多いということか。 |
さ |
やっぱり職人さんでも器用な人と、そうでない人がいる、手が早い人もいるし、遅い人も絶対にいるでしょう? |
ま | アグアドなんて見るからに遅そうだね。 |
さ | 遅いし、うまくないじゃないですか。生涯うまくなかったでしょう。上手くて遅い人もいるし、遅くて下手な人もいるし。 |
な | それ、救いようがないというか。 |
さ | 遅くて下手だけど、音は、楽器の場合って音って何より大切な要素だから。 |
ま | 遅くて下手はブーシェかも知れない。 |
か | 遅くて下手だけど、音はいい??? |
さ |
遅くて下手で音はいい、というのはこれはブーシェに盲信している人はぜひ反論して頂きたいですが、でも下手ですよね。 |
ま | 下手だよ、それこそ生涯うまくならなかった。 |
さ |
ええ、でも音はかけがえのない音です。 |
ま | それはもうブーシェの音はほかでは得られない・・・ヴァイオリンもね、ヴァイオリン作りの目から見ると、一番上手いのはストラディヴァリではないそうですよ。工作技術に関してね。音は別にして。もっと上手いのはニコロ・アマティという、クレモナの本家のようなストラディヴァリの先生と云われている人。 |
さ | もう少し前の人ですよね。 |
ま |
それで同じアマティの弟子であるサント・セラフィンという、これが別格といわれている程に上手いといわれている。工作技術が。ガルネリなんて雑だともいう。 |
さ | 当時、ヴァイオリンで音のチャンピオンは誰だったのでしょうね? |
ま | チャンピオンねぇ、ガルネリって云うのは長らく忘れられていてパガニーニが使ってすごい楽器だというのが知られた。本当かうそかは知らないけれど、パガニーニがガルネリを使ったきっかけは博打ですってしまって自分の持っていたカルロ・ベルゴンツィという楽器をとられてしまって、明日のコンサートで弾く楽器がないと云ったら、だれかがこれで弾きなさいと云った楽器がガルネリウスだったという・・・逸話があるわけだね。多分作り話の。でもある時から持ち替えて、ガルネリ使ったのは事実なんだよ。それまでは知られていない楽器だった。 |
さ | 楽器というのは面白いのは、プレーヤーがいて・・・ |
か | それはその人がその楽器を活かせたという事でしょ? |
ま
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活かせたし、向いてたという事だね。その人の技術に。 |
か |
大ちゃんに今井ギターが合っている、みたいな |
さ |
同じギターにしてもプレーヤーが違えば全然音が違うし。 |
か | じゃ先ほど云われたように、ブーシェは生涯遅くて下手だったとしても音がすごい、かけがえのない音という。それって云うのは工作技術ではなくて、何だろ、材料だったりその人の持つ・・・? |
さ | 工作技術は無いけれど、こうして見た工芸品としては最高ですよね。技術点はないけど。 |
ま | まあ、日本の、焼物みたいな、どことなく不揃いを尊ぶ様なところもあるかもしれない。 |
か |
ここがゆがんでいるとか、こうなっているのがいい、みたいな? |
ま | ブーシェにはそんなところがありますよ。それに比べるとケヴィンあたりは並べれば分かるけど、クリスタル・グラスの様な感じがしないでもない。ただ木で出来ているからどうしたって同じにはならないし、無機的にはならないのだけれど。 |
さ | 今出すと分かるのですが、彼も製造技術は生涯だめだったじゃないですか・・・ |
そろそろいい気分になってきた「さ」、秘蔵のヘスス・ベルサール・ガルシアを取り出す。 |
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ま |
ベルサールさんですか? うん、これはだめでした。 |
さ | だめだけど、これ並べたら分かるけど、美しい!!! ですものね。こうして置いてみると。 |
ま | うん、この表面の淡いむらが何ともいいの。 |
さ | そう、絶対に凄いんですよ。だってこれ、ずれてて鉛筆の跡があるし(ブリッジ)、しかもこの辺り、最初からキズがついていた(ヘッド)。 |
ま |
切り取る時ののこぎりが行き過ぎちゃったんだね, |
さ | (ヘッドの彫刻部分をさして)この辺りも中学生あたりの図工部ならもっと上手に切りますよ。 |
ま |
それにこの辺りはみ出してるし。切りすぎてあたっていたり。 |
さ | でもこうして置いた時にね、 |
ま | あの中間色が何ともいい、全部が同じ色合いではないでしょう? |
か | 確かに違いますね。 |
ま | 志野焼きのムラの様な感じが。ベルサールのいい所は縁のパーフリングが細いっていう事だね。それからロゼットも細いでしょう? |
さ |
うんうん、 |
ま | 表面がすっきりと広く見える。これがすごくいいところ。まあ逆によくないという人がいるかも知れないけど。 |
か | 好きな人はもうたまらない、と。 |
さ |
要するにブーシェもそうだし、下手だけど音が、っていう話、下手の典型で出してみたのですが。・・・ |
ま | 今井さんの楽器もそうなんだけど、やっぱり年々楽器の音というのは一つの方向に向かって進んでいる気がする。例えば野辺さんの楽器はね、学生時代に使っていたし、ずっとあの音は好きなんだけど、今取り出して見るとやっぱり鳴らないよね。今井さんの楽器なんかに比べると。音質は悪くないと思うのだけど。ああいうパシンという鳴り方はしない。今の楽器ってみんなそういう方向に向かっているよね。演奏家の演奏する音もそう、 |
さ | 僕なんかはちょうど団塊あとで、ギター界でも架け橋的世代なんですよね,要するにセコビア神様世代とバルエコ神様世代があって、相容れないのですけど。 |
ま | バルエコというのは神様なのですか? (初めて聞いたという口調) |
さ | 僕はずっとこの業界にいて、槇さんは認めないかも知れないけど、厳然たる歴史上の事実としてセコビア神様:黒船、第二の黒船は僕はバルエコだと思います。 |
な |
鎌田先生なんかは、かなりバルエコ神様なのではないですか? |
さ | 彼は渡辺範彦さん、神様。 |
な | バルエコ、好きですね。 |
さ | バルエコ神様、やっぱりエポック・メイキングがあったのですね。だからそこから育った連中とはっきり音に関する感性が違う。ギタリストのね。 |
ま | バルエコっていうのが、バルエコの音に対するイメージが湧かないのだよね。(不勉強) |
さ | でもね、槇さん、バルエコの音って聴いて判りますよ。バルエコの音。 |
な |
僕も判ります。単音でも和音でもわかります。 |
さ | あれはバルエコの音しているんです。 |
ま | 鈍いのかな、セコビアの音はすぐ判るけど。 |
な | 判ります、セコビアの音の方が判りやすいといえば、判りやすいです。 |
さ | の、ようにバルエコの音ってバルエコの音なんですね。 |
ま | そうかい。 |
な | 初速が速いんです。印象ですけど。 |
さ | ただね・・・音で云うと、これは音だけで云うことなんですが、ずっと沢山音が聴けて、楽器の品評会みたいなのはコンクールなんですね。そのために僕は30年ずっとコンクールに行き続けているのですが、すごく勉強になるのです。今こういう仕事をやっているには常にすごく必要な事な事だと思って行っているのですが、昔はよかったで済まない所があるので・・・ |
ま |
そうだね、うんそれはよく分かった。 |
さ |
そうするとね、今はね、演奏は下手くそだけど、一音でびっくりした、という音がない。今のコンクールに行ったときに。いつからかな、昔はね、あれ〜最後まで弾けるのかな? こんな人コンクールに出ちゃってなんて、でも音のコンクールだったらっていう、音はチャンピオンっていう人がいたんですよ。 |
ま | ベラスケス使っている人とか・・・ |
さ | ○さん、ていう人もいましたし、何人かいるのです。当時はそういう、いわゆるその頃みんなセコビアというのがあって・・・某ギタリスト・グループみたいな、あの音は僕はちっともいいと思わなかったのですね。 |
ま | それなら知っている。空疎な音だ。 |
さ | おっと・・・、そう空疎。 |
ま |
演歌チックな音。よく云えばしっとり、どぼどぼ。 |
さ | とってもセコビアの雰囲気をね、雰囲気だけはとっても日本的に情緒的に似させただけの、音の作り方をね。セコビア・トーンというのが間違ってというか、違った解釈なのですね。それで先ほどの○さんではないですけど、コンクールで本当に音のチャンピオンというのがあり得たのが、80年代前半位、これはこじつけではないのだけれど、奇しくもバルエコが来る頃、初来日する頃まではそういう音を持った人がいた。ま、そういう風に育ってきたからそういう人がいて当然かも知れませんが。 |
ま |
ギターってね、弾くときのタイミングとポジションでうんと音が出しやすい所と出しにくい所があるよね。そうすると出しにくい所はろくな音が出なくて、出しやすいところだけうんといい音がでちゃうという事もあるんだよね。ビブラートの利く場所と利かない場所とがあってみたいな。 |
さ | ギターの話でね、コンクールの音の話つながりで行くと、当時はとてもいい環境にいて、コンクール受ける連中はみんなミック(東京ミック:高田の馬場にあったギターと管楽器の専門店、「さ」はそこに10数年在籍、修行時代)に来ていたから、音も楽器もみんな勉強になったのは、みんなあの空間の中で、前哨戦のつもりで来る訳です。この中で勝ったらほとんど優勝という位の場所だったから。楽器も腕もね。某大先生門下だったのに垣根を越えて、みんなミックに来て、リハーサルをやっていたときがあったのですね。音の事で面白いなと思ったのは、手元で弾いていてものすごくでかい音がしているのが何人かいたのですね。で、手元で弾いていておぼつかないなあ、こんな音で弾いていて、と思った人が、当時あの音響の悪い第一生命ホールで聴いた時に、ものすごく、いい音がした。 |
な | ええっ!!! |
ま | それはそういうこともあるだろうけど、近くでも大きくて、遠くでも鳴ったっていう人はいなかったの? その反対とか。 |
さ | 近くでも大きくて、遠くでも鳴ったという人は、いい音ではないけど、○さんとかね、いましたね。ただ近くで聴いて、その時思って後から考えたのは、こういう所で聴いて音は大きいけどうるさくない人とうるさい人がいるのですね。音が大きくてうるさくない人の音は、槇さんが今云われたように会場でも聞こえる。そしてここで聴いてうるさい人の音というのは,聞こえない・・・ |
ま | ああ、うん。 |
さ | 手元で聴いてうるさいな、って思う人の音って、今までで,まあ100パーセントではないですよ。でも最大公約数的に云うと、そういう人の音というのは、こういう言い方は好きではないけど、通らない。 |
ま | うるさいというのは、やはり雑音が多いのではないかな。 |
さ | それが音はね、みんな上手で汚い音ではないのです。みんなそれぞれ単音はね、ばりばりとか爪がガチャとか、そういうのでは無いのです。そういうのではなくて、僕の耳の中でうるさい音・・・ |
ま | でもうるさく聞こえるという事は、うるさい要素が何かあるんだよ。 |
さ | そうですね。ただ、よく爪も磨かれていて、僕らみたいにずっと習ってきた人間にとって一音は別にうるさくないのですよ。ただ、うるさい。音はでかいんですよ。でも会場で鳴らないの。あんなに鳴っていたのに。どうして会場で鳴らないの? っていう。そういう人が何人かいましたね。一方、手元で鳴らない・・・これでコンクール受けるの? という人が、ホールに行った時に逆転ですよ。音は、あれ何なんだろ? |
ま |
そんなに違うものなのかな? |
さ | 違うのです。違ったのですね。びっくり。 |
ま |
いや、時々聞く話なんだけどねえ・・・コンクールあまり行かないからなあ。 |
さ | 僕は圧倒的に量を聞いているので、あまりにも症例が多いから、そうなんですけどね。その辺りが僕にとって永遠のテーマで・・・ |
な | 今井さんのギターって、そういう差があまり出にくい楽器なのではないかと思うのですが。 |
さ | ああ、だれが弾いても? |
な | 僕はコンクールで聴いていて、そういう印象を持ちました。 |
さ | 大体今井さんで弾くと・・・ |
な | 鳴るんですよ。 |
か | 聞こえてくるよね。 |
な |
ちゃんと聞こえる。好き嫌いは別として。 |
か | あと、全然関係ないかも知れないけど、私は中で(パーテイションの中)で聴いていて、音の事とか、分からないけど、そういう所に出る人とか、まあプロもそうだけれど、中で聴いていて、いらつく音ってあるのね、 |
ま | ははあ、いらつく・・・ |
か |
それって、すごく、こう・・・もちろんいいこと、必要な事かも知れないけど、なんか野心が見え見えっていうのは、私すごくキライなのよね。 |
ま | 野心か・・・ |
か | 私は中で聴いているし、ギターの世界の人間ではないけど、中で聴いていて、まあうるさい、全く〜って思って、もちろん下手じゃないのね。でもそこにもうバリバリの野心が見えすぎちゃうと、おばさんはすっごくいや。 |
さ | やあ、この話、ぜひ入れたいね。 |
ま | 面白いね。 |
さ | これはぜひ入れて、ギター放談から発信したい話だね。 |
ま |
うん、ありそうな話だけど、そういうことは思いつかなかった。 |
か | 中で聴いていて、うっとりしたのは稲垣さんだった。だれが弾いているのかな、って思ったら稲垣さんだった。 |
ま | それはそうでしょう(笑)、いや、前ここに偶然来たときに、大介くんがいたことがあって、こう言っちゃ失礼だけど、ここで弾いていると大した音じゃないのね。 |
一同 うんうん。 |
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ま | 目の前で弾いていても大した音ではないの。 |
さ | 彼は昔は、手元で鳴ってホールで鳴らない典型だった。どこかで鈴木大介は人物が変わっているかも知れない・・・今の鈴木大介はヨーロッパに行く前の鈴木大介と全然違っています。そっくり変わったのではないかと思う程、変わりました。 |
コーヒーブレイク | |
ま | この2本のケヴィン、ちょっと音の傾向違うかな。去年の方が少し重い、というか暗い・・・。低音が。 |
な | これは、昨日だったかな、弦換えたばかりなのですけど。 |
さ | でも、その後○○さんが弾いたから・・・。 |
ま | うん? ひょっとして、手に汗を握るような人。 |
さ | そうなんですよ。 |
ま |
あれ、すごいよね、すぐ弦が駄目になってしまう人もいるから。 |
さ | ええ。そのことはプレーヤーはあまり知らない人が多いのですが、ほとんどの人が知らないですね、自分の体質の事をね。それはすごく音に影響するんですね。・・・でも、だからこそプレーヤーがやれるのだと思うけどね。世間とかあまり視野が広くない人の方がね。ある意味ね。あまりわれ関せず、人の事はいい、やっぱりそういう人がプレーヤーで一流なのかな、と。あまり視野の広い人とか、人に気遣いできる人とかは向かないかも知れない。気遣いしてるんだよ、と云いながら実は出来ないという人がプレーヤーには結構いる。それでいいんです。 |
ま | そりゃ、そうかも知れない。 |
さ | 気遣いしてるんだよ、という事自体、もう気遣いしてない訳で。 |
か | ある意味、それはプレーヤーにとって、とても大事な事だしね。 |
ま | プレーヤーじゃなくたって。 |
さ | 選ばれてやるべき人達は、みんなそうかな・・・と。多くの人に接してきてね。いわゆる評論家タイプと、いろいろな知識があってとても公平に云える人はちゃんと人に正確に物を伝える人であっていいと思うし、表現者は別に正しく、例えばこれは白で、黄色でって云わなくてもいい訳でね。音というのもそういう物だと思うのですね。大ちゃんは音で云えば、正に変わったし、槇さんが云われた様に、彼がここで弾いたら、そう思えるように、今はそういう表現者になりましたね。 |
ま | 入ってきたら、誰か弾いているな、と思った程度でね。 |
さ | 本当にね、手元で聴いて、うるさい、野心とかね、いろいろ話が出たけれど、これ不思議なんですね, |
な | 大介さんが、例えば鳴る楽器、ギルバートとかね、ジェイコブソンとか,ああいう手元でよく鳴る楽器、そういうのを手元で弾くと大介さんは上手いんです。ただホールで強い様な、粘っこい、しっかり弾かないとという様な楽器の時は、傍で聴いてもあまりびっくりしない。もしかすると、そういうのも参考になるのかも。 |
さ | でも、ホールで聴くとね。 |
な | ええ、それはもう。鳴る楽器の方が手元で聞くと、いい音させる。手元はですよ。あくまで手元です。 |