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◆ 第12回 主なテーマ 「音」をテーマに
電気安全法(PSE)論議でもちきりだった頃の収録です。

話を変える。

すぐそこにすごいオーディオの専門店できたの知っています? R&Aとかいう・・・
ああできたできた
ああ、あれオーディオの店だったんですか。

高級オーディオ専門店。

イタリア語みたいですね。
I電気の系列らしいですよ。
ええ、そうみたい。

この間ちょっと寄ってみてね。試聴室があるので入ってみてそこで眺めていたらお店の人が近づいてきて、何かかけましょうかと云うのですよ。べートーヴェンかモーツァルトの弦楽四重奏でもないかって云ったら、モーツァルトの「狩」を持ってきてね、第一楽章を聴かせてもらった。後で聞いたらこのスピーカーが600万円だって。

   
 

一同 へぇ〜

   

600万円ていう音だったかなあ、と思わないでもない。

いかにも高級そうですものね。
ということは、他のアンプなどもすごいのでしょうね。
もちろん。まあ店全体としては普通の物も売っているんだけどね。それで人が溢れるという事はないのだけれど、それなりに人は来ているんですよ。
やっぱりマニアは・・・
うん、それで運び出してる人もいたから。
お買いあげ・・・
それで、そのスピーカーと、その他もろもろ組み合わせて、この間 1400 万円でお買いあげいただきましたって云うわけ。
   
  

一同 ははあ・・・

   
その600万円のスピーカーってどこのものだったのですか?

たしかドイツだったかな。今のメーカーは名前よく知らないのだけど。

新しいメーカーなのですかね。

昔はなかったと思う。

大きい?
いや、それは昔ほど大きくなくてね、これ位かな(高さ1メートル)、そして奥に割に長い。
ああ、じゃ幅は?
そう、幅はこんなもの(40センチくらい)。
槇さんの家のアーデンの方が大きいですね。
ああ、でも奥行きはその方が長い。四角い格好していない訳、こうカーブのある・・・それはもう昔は木のものといったら直線しかできなかったけれど、今はもう何でも作れる。
じゃ木じゃないの?

いや、木らしいのだけど、組み合わせて成形することがたやすくなっているということで、昔みたいな箱という作り方じゃないから。で、それをね、600万円のスピーカーで、あとアンプやらCDプレーヤーとか組み合わせて1400万円っていうのはつまりそれだけ買うということは、察するにその人はマニアではない、それどころか初めて入れたのではないかと思うわけ。

なるほど、全てのセットを。
そうしてみると、例えばここにフラリと来てね、たまたまあった、例えばサントスでも何でもいいけど・・・いや駄目か、サントスはビンテージだから。それより現役で最高級品と目されている、アルカンヘルでもハウザー3世でも何でもいいけど、そういうのを1本、それと足台と音叉と譜面台を一緒に買ったみたいな気がしないでもない。
ハハハ・・・それちょっと面白いですね。ツメヤスリと一緒に買うんですか?
だってすでに持っている人がね、ちょっとスピーカー換えたいと、そこにはアンプがいるからそこだけ換えて、慣れた物とどう違うかとか、その方が分かる話だと思うのだけど。でもああいう店ができて、それなりにやっているということは、つまりこういう企画を出すということは、もう一回火がつくと踏んでいるのかね?
僕、槇さんに聞きたかったのは、今度法律かなんかで・・・

そうそう。中古品がね。

PSEでしたかね。

そう、そのマークがなければ売っちゃいけないと。

そうそう、あれひどいよね
そう、ひどい。そうするとオーディオなんかの中古品が扱えなくなってしまう。
今、反対運動やってますね

でも反対運動やっているけど4月1日から施行でしょ。
(その後、結局何となく、なし崩しになってますね)

でも、やりますと云って、その猶予期間があって、その間何のアナウンスもなくて話題にもならなかった。
だから反対運動やるきっかけもなかった訳だから・・・ひどい話だよね。
この辺のオーディオ屋さん、どうなるのですかね。

だから売っちゃいけないんでしょ? 何年だっけ?

2000年以前のもの。
じゃ、ほとんどいい物は売れないでしょ? 明神下の角にオーディオ・ビンテージのビルがあって、槇さんなんかは絶対好きだと思いますけど。
でも基本的にそこにあるようなのは売れないのだと思う。
アンプとかも。

安全性ということなんだから、アンプこそだめでしょう。

そう、だからね、坂本龍一さんなんかが反対運動してる。

電子楽器だめでしょうね。それこそ昔の30年代のサントスしかだめだという人みたいのがいるのと同じで・・・

そうですよね。
何年代のアンプしかだめだという人がいるはずだから。アンプなんて特にね。
真空管の・・・
それに独自で試験しようと思うとすごくお金がかかると・・・業者が自分の責任でね。
でもあれは個人的売買ではどうなんだろう?
ネットでやる分にはいいよと
そうなるといよいよオークションとか闇ルート商品ばかりになって。
そうそう、だけどインターネットでもあまりにも多くなるとそれは商売とみなすと。

でもそういうものは、何年も継続してやっている業者が扱ったものでないと、買う方は心配でしょう。保証がないとかね。本当にこれが素姓正しいかどうか分からないから。オークションではね。よっぽど役人って趣味がないのかね。

売れなくなったら全部廃棄商品になるのですか?

そう、そうすると今度は不法投棄が増えるという・・・

いい物は重いからね。捨てたら大変だ。
だって結構価値のあるもの、多いでしょう?
多いよ、棄てるのならちようだいよっていう感じ。
 
 

・・・

  その後も続く。この法律、またまた変な方向に向かった様子。
 

CDを換える。「マニタス・デ・プラタ ジプシー・ルンバ」 フィリップス

   
これが前に話したマニタス・デ・プラタ。
マニタス・デ・プラタって楽器何ですかね?

これジャケットによっていろいろある。

(ジャケットをみて)えっ、これマニタス・デ・プラタですか? ああ、あんまり若いので・・・70年代後半にパルコのコマーシャルでテレビてに出てきたのが日本で一般的になった最初ですね。
って云うんだけど、そのずっと前、1967年に初めてLPが出て、話題になってたんだよ。一部で、おもにオーディオ・マニアのなかで。優秀録音だったんだ。マイクはソニーのC-37A。それをCDにしたのがこれさ。
この声はフラメンコの声?
ジプシーの・・・

このしわがれ声。
この写真に写っているのは、あれと(サントス)同じヘッドしている。ドミンゴ・エステーソだと思う。ドミンゴの格好してる。だけどラミレス持っているのも見たことある。ホセ・ラミレス3世。

あの木ペグの?
そう、木ペグもあったし、マシンヘッドもあった。いろいろな写真がある。でも比較的ドミンゴが多いよ、これなんかもそう。
クラシックだとよく音の事を云うけど、このギターはとか、あの人の音はとかフラメンコはどうなのですかね?
いや、でも聴いてみるとね、クラシックよりはるかに誰の音だって判る。弾いてる人の音ね。
ああ、その人の音がね。
へ〜え! マニタス・デ・プラタはもう何歳ですか?

もう亡くなったろうね。それこそ・・・

21年生まれと・・・
生きていたとしても
まだ60歳くらいなんだから生きてるんじゃない?
   
   

一同 えっ!!!

   
あっ、1921年? はは・・・昭和かと・・・
  

アルルの人ですから、昭和とは言わないと存じます・・・。
これ意表をついた転調とかするんだよね。そこが面白くてさ。純粋なフラメンコと違うんだよ。ファンには名士が多いのだよ。ピカソだとか、ブリジット・バルドーだとか、ダリとか、ジャン・コクトーとか・・・

じゃ、フランスのサロンみたいで,芸術家がたまっていた様な・・・

避暑地で弾いてたらしいよ。みんなが集まる。ピカソとは親しくしていたらしい。ピカソに捧ぐなんていうレコードがあって。ピカソと並んだ写真もあるし。レコードにブリジット・バルドーと並んだのと、ピカソと並んだのと2種類ある。
実は僕はマニタスと同じ時代に聴いているのだけれど、当時はきらいだったの。今はそうじやないけどね。今になって、あ、いいなと思う。その時は、まあフラメンコとしては掟破りみたいな事やっているし、異端児で変なことやっていると思っていたんだけれど。

なるほどね。
だけど今、パコにしてもビセンテ・アミーゴにしても金属的な音になってきているでしょう? あれに比べるとこっちの方が枯れた音でずっとフラメンコだなと。この声もそうだけどかすれた音がそれらしいよね。

僕なんかフラメンコ、もうビセンテ・アミーゴくらいから全然判らない・・・

あれもうまいんだろうけどね。
   
  シャンパンになる。「か」が伊勢丹でオーナーのお嬢様っていう人に勧められて買ってきた・・・おまけのストッパーはグッド。「ま」「な」もほんの一口。
   

いい色だね、シャンペン・ゴールドとはよく云ったものだ。色は薄い方だね。

   試飲していたおばさまが濃いわね、いや、重いわねって云っていたけど。
いや、全然重くないよ、ヴーヴ・クリコなんかの方が重いよ。
輪郭があって中身が薄い味だね。
表面辛くてふぁっと消えちゃう感じですね。
なんかすっきりしてます。
音に例えると・・・
音にたとえると・・・?

ハウザーじゃないよね、中身つまってないから。

ああ違いますね、中は結構・・・
アルカンヘル・・・
ん? アルカンヘル?

どういうアルカンヘルをさしていうか。

最近のアルカンヘル。
傾向的に云ったら何なんだろうな〜、メンヒとか。
う〜ん、メンヒ・・・
メンヒって意外とこうふぁっと、意外と中がこう、何というのかな、芯がピューっと詰まってピーンという音ではないですよね。

うん。

但し、槇さんのメンヒは違いますよ。僕の云っているのは70年代のメンヒ。
ああ、73年4年のね。
そう、あの頃の感じ。
ああ、それなら分かる。
槇さんのメンヒはハウザーのような音がかっと締まっているでしょう? あれではなく。

あのね、音っていうのは一番例える言葉がないんです。音だけに関して使う形容詞ってないでしょう? みんな色とか・・・

ワインの表現の様になるよね?

と云うか、ワインの表現くらい出来たらいいなと。僕はいつもコマーシャル書いてて言葉がないのですよね。

ないでしょう? 単語が数語で終わってしまうのだよね。
僕は今日のテーマ:音という事で思ったのだけど、ワインでこうあるじゃないですか、水平とこうあって重い、軽いっていうのがあって表があって、芳醇とかね。音でそれを考えたら、例えば重いがあって、軽いがあって、暗い、明るい???
細い、太い、だから今云った言葉って全部音専用の言葉ではないじゃない?他の色だとか味だとかの転用だから。
   
 

一同 そうだよねえ・・・

   
やっぱり音のソムリエっていう表現は正しいんだ。

いつそれを言い出したんだっけ。

思えばあのバブル真っ最中の頃に試飲会に行った時に、知らなくて怖かったけど、よくもあんな・・・まだ田崎真也が出る前で・・・
ああ出る前だね。
で、今聞いたら、ヴァン・シルヴァンのママとか、あの虎ノ門のねワイン・ショップのオーナーママとか、あとホテル西洋銀座のソムリエ、とか自己紹介している時に僕それを云ったんですね。
でもよく思いついたよ、いい言葉だ。でもその頃ソムリエを職業として選んだ人は先見の明があるね。今は沢山いるけど。今はそれを真似してお茶のソムリエだとか、蕎麦リエだとか・・・日本酒の利き酒の資格だとか。
音の表現って結構ね・・・
ソムリエの表現っていうのはね、そこに約束事があるんだよ。
森のなんとか、とか?
そう、この味の事はこういうって
へえ、あるんだ。

それが多少は人によってずれがあるかも知れないけど。音に関しては全く統一性がないよね。

ないですね。

ある人が太いって云ったって、別に太くないよって云うかも知れない。だけど、初めての人には難しいけれど、何度か通っているうちに、
「メディア・カームの酒井さんと云う人はこの音の事を明るいというのだ」と相手がわかってくれるかもしれない。そうすれば他の楽器を見たときに、あの楽器を明るいと云ったから、この楽器はこうだろうと。逆に、知らない楽器でもコメントを聞いただけでどういう楽器かという見当がつけられる。

一番困るのが電話で問い合わせがあった時に、どういう音ですか?って聞かれることで・・・
それ、相手がどんなものを知っているかわからないでしょう?
そうなんですね。

前にね、ある自動車雑誌でね、ベンツの操縦性について書いた記事があったんだけど、すごく不親切なのさ。どうしてかと云うとね、ベンツの乗り心地がどうかと云うのにね、安定感があるとか、どっしりとしたとかいう表現は何も使わないの。「これはいかにももうベンツの乗り心地であると」書いてあるわけ、そうするとね・・・

ベンツを知らない人はどうなのっていう。

そう、ベンツを知らない人のための説明がされてない。逆にベンツ知っている同士の会話はそう云いたいのだろうな、という感じがしないでもない。ベンツ知らないヤツは出てくるなよっていう、ちょっといやな感じかしたわけ。それが同人雑誌ならともかくね、月刊誌としてはちょっと不親切だな、と思った。

五感、味とか音とか形にならないものを表現するということは難しいですね。
だから、さっき云ったみたいに共通のものがあるといいのだよね。

僕は言葉全体がそうだと思うのです。結局全てを伝えることは無理だと。

お酒なんて一番面白いのは、皆が開けて飲んで、やあ甘いよね、なんて云っても、別な人は、えー辛いだろう、と感じたり・・・

見ると辛口度、何度とかね。
そう、典型ですね。
うん、全然違う。
だから嗜好のものって云うのは特にそれがあって。
じゃ例えばこのシャンパンがどう感じるかは人によって違う? どこに属するかと。
これを甘いという人はいないかも知れないけど,

でもこれを重いというのはおかしいと思うけど。

おばちゃまでしたよ。
普段どういう軽いのを召し上がっているのかね? 確かにこれはトゲはないよね。
トゲはない。
カバのような刺すようなものはないね。
ないです。
その分こちらの方が上品だね。でも、カバって面白いけどね。あの刺すような感じいいよ。
ちょい安のシャンパンよりはカバの方が旨いですね。あのブリュット感が、辛み感がね。ちよっと舌を刺すようなというか。
舌に稲妻が走るというかね。人によっていろいろ云う。
刺激の一種が伝わってくるのですか?
ソムリエの用語で傑作だと思うのは、火打ち石の香り、っていう。あれはよく云ったと思うし、よく判るよ。石と石をかち上げ合わせた時のツンとした臭いってあるでしょう。
鉄っぽいとか? そうじゃなくて?
ちょっと金ぽくて焦げ臭くはないのだけれど、石の粉の砕けるような、焼けた様な・・・臭い
あれはよくわかる、あと黒スグリの臭いだとか、枯れ草の臭いだとか、いろいろな事云うよね。
ねこのおしっこの臭いなんていうのもありますよ。ムスクですね。
そういう使われる言葉が100以上かな。
ありますね、ソムリエのコンクールの時に表現を聞いてると。でもコンクールだからいかに表現を美しくするかはあると思うけど、正確というよりも演出力もあって、言葉が美しいことも必要なので。
じゃ、全くオリジナルの言葉を出してはいけないの? 基本はいつくかあってそれに絡めてみたいな?
いや、それに準じているものならいいのでしょうね。要するにコンクールである訳だから、例えばグランヴァンのワインならそういう表現の定義があるわけでしょう?
そうだろうね、シャトー・ラトゥールの場合はこう、とか。
決まっていて、そういう定義に値するようなオリジナリティのある言葉で云ってもいいのでしょうけどね。
俳句みたいに決まり事がある? 季語みたいに
ああ、そういう決まり事はあるでしょう。
そうなんだ。
だから、音に関してはそれがなくてね。
ええ、音にはねぇ。
昔、オーディオがはやりかかってきた頃、1960年代。ある音キチが二人でバーでずっと音の話をしていたのだって。で、一時間から二時間たってね、そばにいたマダムがその話を聞いていてね、音の話をずっとしていたのに、ほかの話に聞こえたって笑い話があるよ。
ほかの話っていうと?
太いとか、細いとか、しなやかだとか・・・ね。ずっとまじめな顔して、なんていやらしいって。(笑い)ほかにも上のほう、下のほう、締りがいい、わずかな刺激に敏感に反応するとか・・・

もう、やめてください!!!(笑)

確かにね、音の表現ってね。でもオーディオの世界ではどうなのですか?音の表現は。
いや、やっぱりそうなの。
音の表現は豊富ではない?
うん、豊富ではないし、人によって独自の事云うわけ。ヴァイオリンの製作年代が新しくなったような音 なんていった人もいる。
オーディオって楽器以上に音ではないですか? ああ、でももっと他の事もあるのか。深い世界だから。
音だけでいえば、もう失礼だけど、これ位の大きさで(メディア・カームのコンポを指す)充分聴けるようなものは出来ている訳でしょ。あとはそれこそ3万円のギターと300万円のギターとどこが違うのだという話で。そうすると一部の人の見方としては、ほぼブランド品に近付いてきてるのだと思う。
ああ、やっぱりオーディオもブランド。
だからさっきの話の1400万円のオーディオを買った人はどうだか知らないけど、例えばお金持ちが家を建てて、ここにはオーディオの一つもあった方がいいな、と云うことで出向いてきて、「これは世界の一流品です」「かの有名な何々です」という製品を集めるということもあるんじゃないかな。部屋の飾りに本があった方がいいから本を買ってこいみたいな・・・かなり悪い話になっちゃったな。昔、レコードを50万円分下さい、といった話もあるし。
百科事典がいるから、とか。
そうそう、そういう感じ。

・・・つづく・・・
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