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◆ 第11回 主なテーマ 「音」をテーマに

ここで、別の楽器を「ま」に手渡す。

これちょっと見てください。
サインが二つあるみたいなラベル。(軽く試奏)へぇ、いいね、これ。
(佐久間悟)
ロマニロスの処でずっと修行してきた・・・まだ若い人なのですが。

信州上田か。真田幸村の。

今、注目しているのですが。
ロマニロスねぇ・・・(似ているところを探している)
ええ、ロマニロスの処の講習会に参加して。
ほう、ああ、ここのヒールはロマニロスか。ヘッドも何となく雰囲気あるね。うん、いい音だ。音離れがいい。
最初に見たときに、何かとてもいい性質だなと思って。これはつい3週間ほど前に出来たばかりで。
いくらくらいで?
これ、30万円なのです。
ほ〜う・・・
かなり欲しいです。
30万円ではちょっと比べるものがないな。
すごくいいセンスでしょう? 槇さんがそう言って下さると良かった。これは最初に彼に会った時からいいと思って・・・
いくつくらい?
僕と同じ位です。
仕事しながら・・・妻子持ちなのです。生活があるので夜は塾の講師をしながら昼間作っているのです。だからまだ年間6本なのです。

それは少ない・・・指板が少し丸くなっているね。

ええ、少しそうです。今のプレーヤーはほとんど真っ直ぐをいやがるので。セーハはやっぱりこう反らすはの不自然なので、そういうのを取り入れて。ロマニロスは真っ直ぐなのですが、少しアールを付けてあるのですね。

結構古いところでは52年のメンヒがラウンドだよ。かなりはっきりわかる。

彼が前に見せに来ていた時に、Tさんがいらしてて・・・
Tさんはこういうの好きでしょう。
ええ、次に来た時はもらうからと。
うん、これはいい。くせが無くて。今ギターを練習中の人に。本気になって練習中の人にね。
ちょっと日本の楽器にはないようなものを持っている。
抜けがいいんだよね・・・大きさはどうなんだう。
   
  ケヴィンと並べて置く。

左から、サントス・エルナンデス1929年、ケヴィン・アラム Ziji、ケヴィン・アラムMarika、佐久間悟新作(新しいオーナーさんが決まり単独写真がなくて申し訳ありません)

   
ケヴィンが小さいですからね。

いや、ロマニロスもこのくらいだもの。同じ位だね、よく似てるわ。

普通、並べるとケヴィンの小ささが際だちますけど、あまりそうは思わないですね。 
もらった瞬間、すぐ次を注文したのです。すぐには出来ないので。
2ヶ月に1本か・・・1本ずつ作っているの? それとも並行して?

並行して2本とか3本作るのです。

そうすると半年にまとめて3本できると。
ええ、とても信頼してくれていて全部見せてくれたのですが、1本は特注でハカランダでした。でもハカランダ3組くらいしか持っていないと。僕はハカランダはもっとためてから頼むから、ずっとローズで作ってくれと・・・やっぱりすぐハカランダで作ってくれといわれるから、無理して作るのですね。彼などは,新しい人はとくに大切にね

しかし、こうなると30万円と300万円の違いはどこにあるかと云うことになるねえ。こういうのが出てくると・・・まあ、3と30の違いははっきりと分かるけどね(笑い)。これと比べるとサントスの方がよっぽどバランス悪いしさ、でこぼこの楽器で・・・
ところで、ロペスがあるって聞いたけど・・・

   
 

マルセリーノ・ロペスを出す

   

ロペスも高齢で今後あまり見ることができないかも知れないですよ。

ん? ロペスの塗りってもう少し渋いと思ったけどな・・・
(調べて)ロペスは今年で74ですね。
74? もっといっているかと思ってた。
32年生まれ。
中が塗ってるあるところはロペスらしいけど・・・これはハカランダ好きが見たら喜びそうな素材だね。
そうですね。

これ昼の光で見たら、ちょっとこの辺緑がかっているよ。この縁のあたり。

ねえ、こんな風にはねえ。3本くらい?(ロペスのパーフリングは複数本入っているものが多い)
うん、3本だね。いや、ロペスはね、青と赤っていうか、結構好きでよく使うよ。まえはこれとか結構細かいのをモザイクに使っていたよ。今は目が悪いのではないかな、大きな模様だね。
それ何?
マルセリーノ・ロペス。
   
 

ここでブレイク、というより食事タイム。オードブル各種とお弁当などを並べる、その間手伝わない人は試奏したりしゃべったり。

   
楽器は出しておきますか? 眺めていた方がいいですかね?

うん、眺めていた方がいいね。
ロペスの色なんだけどね、何か表面の艶が違うような気がするんだよね。色が濃い。厚くなった?

そうですね。というのは、昔薄いのはロペスがもっと塗りたいと云っていたらしいのです。つや消しのようなのありましたよね。あれはロペス的にはまだ半完成って云っていた。
こんなにてりてりしているとウレタンになっちゃったのかな、と心配してしまった。
そうですね。でもセラックです。
横・裏ほど派手ではないけど、ヘッドがいいハカランダだね。
これすごいですね。

うん、そりゃあまあ、本体にいいのを採ったあとでそれ位しかないのだろう。それで全部出来ていたらいい・・・

(ロペスを弾きながら)少しずつ変わってきたなあ・・・
あ、そう?
   
 

ここで乾杯。「さ」はビールで、その他はお茶で。

 

CDをかける。「パコ・デ・ルシア フラメンコ・ギター幻想の世界」 フィリップス。

   
これはパコのうんと若い時の。
パコって最初の頃、コーヒー・ルンバだの、コマーシャル的なものをやっていたのですよね。
うん、あれで最初日本に売られちゃったの。
そうですよね。リカルド・モドレーゴとの二重奏。

それが最初に入って、その後フラメンコで日本に入ってきた1枚目か2枚目がこれ。でもこれ聴いた時はびっくりしたよ。

僕、今にしてはもったいない事したと思うのですが、パコのソロ聴いてて・・・名古屋で。その頃カルロス・モントーヤしか知らなくて、なんか凄い!っていう記憶が・・・、その頃って本当に初期ですよね、72年?
うん、72年じゃないか? 初来日で。
確か3人組で・・・ 
兄貴のラモンと、それからエンリケ・ヒメネスじゃないか? メルチョール・デ・マルチェーナの息子。それがねスペイン帰り人に聞いたら、エンリケ・デ・メルチョールと云うのはね、指は一番動くのではないかというんだよ。

セレドニオ・ロメロ:ペペのお父さん のCDをさして)

これ80代のおじいちゃん、驚異です。
うん、83だっけ。
ええ、亡くなる寸前の・・・
でも、僕たちがセコビアを聴いたのもその位の歳の時だよね。80年代の頭かなんかだよね。
ええ、そうです。
セコビアは1893年生まれだから、もう80も後半だね。
3回目の来日が80年で、最後が82年か。
   じゃ、80年の時、聴いたのかな。87歳か。
最後に来たときはもう90近かった・・・すごい・・・
あの時は最初のドゥ・ヴィゼーの組曲でつまずいて、どうなることかと心配したのだけれど、あとは調子を上げてきてね、後半になると、さっきはどうしてあんなところで間違ったんだろうって云うくらい、セビリアなんて何ともなく、すらすらと弾いてしまうんだよねえ。

音も最初の頃、えっていう感じだったのが・・・どうなんでしょうね、あれ。

だんだん乗ってきたんだよね。
会場全体が響いちゃう・・・
そうだね、弾いた所で音がするのではなくて、その周辺の空気がわーっと鳴っている感じしたよね。
   
   (パコのCDの話に戻る)
   
これは、コンデ・エルマノスですね。
うん、コンデ・エルマノス。
これ何年頃の録音ですか?
70年ちょうどか少し前じゃないかな・・・そうだ、この少し前ね、ドイツで何年か連続でフラメンコ・フェスティバルって開かれた。
ドイツで・・・? 昔ですか?

60年代後半。それでね、その68年・69年にパコが出演している。ソロで。それでこれ(流れている曲「ルシアのグアヒーラ」)弾いたの。

それって記録があるのですか?

うん、家にレコードある。

レコードになっているのですね。
そう、実況録音盤。それでその時パコはソロで招かれていた。だから歌の伴奏しているのは他の連中。それが68・9年だから、同じころの録音だと思う。この一曲前(「アレグリアス」)もフェスティバルでやっていた。
というのは、日本に紹介されたのは違う・・・

そう、コーヒー・ルンバ辺りはそれのちょっと前で、64〜5年かな?もっと前かな。高校のころ聞いたかな。そのころはそういうものを弾くギタリストだと思ってた。

 (曲が変わる)
この曲知ってます。
知ってる?
「祭りの日のショール」とかいう、フラメンコの中では作曲者がはっきりしている。エステバン・デ・サンルーカルと云う人の曲。
大学入ってすぐか、高校の終わりの頃にパコ・デ・ルシアのアルバム一枚買いました。

それに入っている? じゃあ、これだよ。

ベスト盤みたいな・・・

ああそうか。
色々なのが入ってました。

君はレコードの世代ではないよね。CDベスト盤だよね。

それに入っていました、はまりましたよ。洪水の様なこの・・・

それにこの音はさ、本当にこういう音でしょ、フラメンコギターって。歯切れが良くて、乾いていて。
ええ,僕が大学に入った頃、青学はフラメンコがあって、結構パコってまだ新しくて、前の方がいいとみんな云っていて、パコのは音が軽いとか、フラメンコの連中は、要するに槇さんとかその上のOBの世代とかはニーニョ・リカルドとか・・・
メルチョール・デ・マルチェーナとかねえ。

サビーカスとか、あの辺りを信奉していたのですかね。

確かにこれはぶつ切れの音なんだよね。伸びない音だね。いや、楽器のせいもあるけどね。

でも、もうそれ以降は完全にパコが主流になってしまいましたね。
うん、パコ流のやり方だね。
彼はそれからわずかの間にすごい勢いで色々なことをやり始めたですよね。スーパー・ギター・トリオだってそうだし。
フラメンコって結構年ごとに変わったことをやっていく音楽なんだね。いつも同じではないと云うこと。モダン・ジャズなんかと同じでさ・・・次の曲がいいんだよ。「エル・テンプル」。
これ、僕らの世代で大流行した曲だ。フラメンコの奴らはみんなやっていた。
これ弾いたの? なかなか弾けないと思うけどね。
弾けない、弾けない、真似だけ。こんなに格好良く弾けない。これでデュオとかするの。
ああ、デュオで・・・こういうシンコペーションの多い曲は当時すごく斬新でね。いや、ブレリアにシンコペーションは付きものなんだけど、ファルセータ(フラメンコ・ギターで弾くメロディーのこと)自体がシンコペーションを含んでいるのはなかなかなくってね。
これブレリアでしたっけ?

そう、ブレリア。
(ブレリアとはスペイン南部、シェリーで有名なヘレスの舞曲。4分の3拍子の快速調。アクセントに特徴があり、8分の6とも取れる。くせになるくらい面白い曲。アランフェス協奏曲の第1楽章のリズムがこれ)

あっ懐かしいな〜
青春がよみがえりますか?
ジャケット見せて下さい。
これパコ、むちゃくちゃ若いですね。
初めて見ました、それ。
すごく若いよ、これ。楽器はコンデですね。

これは若い時のパコ・デ・ルシア、その後のパコ・デ・ルシアがね・・・

   
 

CDを換えようとする。その間「な」が曲を口ずさむ。

「ターン・ターン・ターンタ・タッタターン・ターン・ターンタ・タッタ・・・」

   
これはなんという? 好きなんですよ。
ああ、それは「二筋の川」。
あれは、うんと後、ルンバかな。
5年くらい後だね。あれも大流行したね。

流行りましたねえ。
(別のCD)

これがその20年位後のパコ・デ・ルシア。
今鳴った「どーん」という太鼓みたいのは、神田明神か?
いや、これエレキベースがはいっているの。
え、これ(CD)?
なんだかスチールみたいな音に聞こえるでしょう。ほら、ラスゲアードのところがさ。スチール弦みたいに・・・エコーは入っているし。
だいぶ後のですか? ああ、だから・・・録音が違うんだ。
そう、だいぶ手を入れている。

・・・つづく・・・
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