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◆　第8回 主なテーマ 材の話
ま
 表面板の修理をするときには、この木目、夏目・冬目とあるじゃない。これを使って判らないように直すのが修理人の技だということだよ。古いヴァイオリンでは常識らしい。
さ
 今井さんのお話ですが、完成して塗ってみて初めて割れが判る事があるという事です、作る前にできるだけチェックするのだけれど、どうしても判らない物もあると、ニスを塗ってニスがしみ込んだ時に、
ま ああ、そこが黒くしみになる・・・
さ で、だんだん本当に割れが出てくる、浮いてくるのだそうです。
ま 今井さんほどの人でも。
さ 怪しい所は、目の線のあやふやな所はできるだけ使わないと・・・以前完成して、さてお客様に納品しようとして見た時に、すーっと割れが入っていた・・・
もちろん取り替えましたが。作り直しでした。
ま 新作の、例えば2005年作というようなギターで、裏の割れを修理してあるのを見ることがあるよ。
さ 材料の時に直して作るという事はあるみたいですね。
ま こうしてみるとギルバートのヒールって長いね。
な ケヴィンの3倍くらいありますね、
さ 好対照ですね。
ま ギルバートはもう出ないのだから、これは（手に入れる）チャンスかも知れないね。
さ シグニチャーですし。サイズも違うのです、小さいです。ハカランダだし。
な ハカランダのこういう目というのは割れやすいのですか？
ま うーん・・・例えば表面板みたいな材料だったら、はっきり年輪があるでしょう、これ（ハカランダ）は年輪とは違う訳でしょう？
な どのように成長しているかは、ちょっとね。
ま それにこういう樹が生えている所は、四季があるの？
さ ああ、雨季と乾季があるだけではないですか。
ま 四季のあるところの年輪と、こういうものが丸太を断ち切った時に、年輪がどうなっているのか？　よくわからないよね。この縞がなんなのか。植物学的には何なのだろうね。
さ 製作者の人が云うには、柾目、木目どちらが割れやすいという事はないのだそうです。ただ割れた時のくせが悪いのはこういう方（板目）。割れた時に収拾がつかない。
ま 側面を曲げるときに、うまく行ってないのがハカランダには多いと思わない？
な すいっと交互に波打っているタイプですよね。やっぱり密度がこう・・・
さ やっぱり相当堅いのでしょう。
ま 実際、堅いのだろうね、ローズウッドの方がきれいに曲がっている様な気がする。
な 縞が均一で硬度にムラがない、というのでしょうかね。粘りの。
さ 柔らかい・・・相当柔らかいみたいです、インディアンローズウッドは。ハカランダは削っても刃が刃こぼれする位だという話です。
ま なるほど、シャムガキというのも堅いらしいね。
さ シャムガキ、堅いですね、ある製作家はシャムガキアレルギーで瀕死の状態になったことがあるそうです。今では防毒マスクで作業しています。
ま そういえば、ベルサールがハカランダの粉で胸を悪くした、と。
さ ええ、そんな話ですね。
ま （資料をみて）これがシャムガキ、これは綺麗だ。
な 確かに、本当にギターの色はこうでした。
ま これはメープルの縞だ。
さ 綺麗ですね。
ま （同じく資料をみて）これはメープルの縞のないやつ、ハードメイプル。
さ ハードメイプルって？
ま ソフトメープルとハードメイプルとあるらしい。
　 　
ま これマーチンのカタログなんだけど、これを見ると材料なんかも詳しく書いてあるよ。ブラジリアン・ローズウッド・・・ああ、これはＤ−45だ。今でもカスタムで作っているらしいんだ。Ｄ‐45セルティックノット、3万5千ドルだって・・・
な 3万5千・・・新作で400万！！　あるんですね〜。
ま マーチンの中で一番高いやつ。普通のＤ‐28っていうのがこれで、インディアン・ローズウッド、ソリッド・シトカスプルース・・・
さ フォークはシトカなんですよね。
ま ああ、これ（Ｄ‐45カスタム）はアディロンダック。
な アディロンダック？
ま アディロンダックの方がもう少なくて、カスタムにだけ使うみたいだよ。
さ

シトカって、あまりクラシックでは使わないですね。シトカ・スプルースっていうのは、アラスカ・スプルースですかね。
ま えっ、産地でしょ。
　 　
　 （「な」調べる）
　 　
ま やっぱり北米のカナダからアメリカにかけてのどこかにある、という。シトカって場所じゃない？
な シトカはアラスカにある地名。アラスカ檜とも呼ばれる、エゾ松の仲間であると。ピアノの鍵盤に用いる・・・
さ アラスカ・スプルースの楽器は、以前松永さんなんかが使っていたのです。ちょっと赤っぽいものなのですが。
な レッドウッド？
さ レッドウッドは杉に近い方です、ベルナベの使った、あれは杉に近いです。
な スプルースも色々ですね、ホワイト・スプルース・・・
ま ホワイト・スプルースもやっぱりアメリカでしょ
な イングルマン？
さ イングルマン、イングルマン・スプルースは本当に真っ白ですよ。以前「ま」さんが弾いた真っ白なギルバート、あれが正に。今かなり日本でもジャーマン・スプルースのいい物がなくなって来たので、ても、真っ白なのを見せるためにイングルマンをかなり入れているのです。まだ価格も安いのです。ただ、軽いみたいですね。どう表現していいのか解らないけど・・・
ま 中身が詰まってない・・・（笑）
さ あっそうなんです。
ま 密をハウザーとすると、その反対。
さ イングルマンにはそういう所があります。
ま （資料を見ながら）マーチンにもこういうタイプ（クラシックに似たボディでネックが12フレットで装着）があるんだね、000‐28。これノーマン・ブレイク・モデル、9999ドル・・・
な さっきの3万5千ドルはアディロンダックだ。
ま これも（000‐28）アディロンダックだね、
さ アディロンダック・スプルースっていうのはどこの材なんだろ？
ま

ニューヨーク州にアディロンダックという地名があるらしい。マーチンのＨＰはすごく詳しいよ。これが仕様書だから・・・素材から装飾まで全部書いてある。クラシックギターでここまで書いてあるものっていうのは無いよ
さ 書かないですね。
ま やはり、そちらのジャンルの人の方がずっとマニアだね。
さ 「Ｄｏｒｉ」モデルを立ち上げたでしょう？　やはりアプローチの仕方が全然違いますね。材に対するこだわりとか、こだわり方が違うのですね。
ま 何というか、産地も表示するし、数値で表せる物は数値で表すね。
　 （マーチンの仕様書を見ながら）
さ この仕様書はすごいですね。
ま

うん、全部の種類にこれだけ書いてあるよ。このＤ‐28っていうのはラミレスの普通のギターって云う感じの・・・
さ ああ、スタンダードモデル、スペシャルモデルではないクラス。
な これが最高のですよ。
ま Ｄ‐45、その中でも特別仕様のハカランダモデル（リミテッド）。
さ （Ｄ‐45）ナットマテリアル：ボーン・・・アイボリーではないのですね。
ま しかし、ここまで書こうとすると、製作者しか書けないよね。
さ そうですね、
ま ここまで書いて、細かい所が決まっているということは、やはり一定の規格に基づく工業製品なんだな。製作者がこつこつ全部やるというものではない。
な レシピが決まっていて・・・
ま いわば、セントラルキッチン。
さ 同じ仕様書でも、ケヴィンなどのは、手書きで一つ一つ・・・
ま で、一つ一つ全部違うかも知れない。マーチンみたいなのは全部違ったらこういうものは成り立たないから。
さ 本数が桁違いですから。
　ま　 マーチンは去年かな、百万本行ったんだよね。　
さ 百万本！！
ま マーチンではシリアル番号を1世からではないと思うけど、どこかから付けている、それが百万を超えた。それがこれなんでは？
さ ああ、そうですね、ミリオン、これ凄いですね。バロックギターの様ですね。裏もすごいですよ、
ま それマーチンのＨＰの表紙だよ。
な わあ、すごい。
か あのジャンルの人たちは好きですね。こういうの。
さ こちらの世界（クラシックギターの世界）だと、こういう装飾は入れないですね。もっとシンプルですね。
か やはり工芸品であると。
さ 19世紀ギターの場合でも、実際に演奏に使われたものには装飾は無いのですね。
ま 王侯貴族に納められたものは、装飾があって、使われていないから、ぴかぴかだし。
さ やはり音も良くないですね、そういうものを入れてしまうと。振動が妨げられる訳ですし。ボディなどに装飾をいれてしまうと、木の振動が変わってしまう訳ですし。用途が違うと云うことですね。
ま シリアルナンバーといえば、ライカがやっぱりシリアルナンバーがあって、もう百万はとっくに超えてるの。だから、同じ様な意味合いがあるのだろうね、持っている人にとってみると。自分のが何番であるのかというのが。多分マーチンの場合も、何万番台がいい、とか、その世界の人にはあるのだと思うね。アグアドの何年がいいというのと同じように。
さ 同じでしょうね。
ま 同じとはいうものの、アグアドの何年ものなんて10本位しかない訳だし（笑）。
さ アグアドは総本数でも、4百・・・？
ま 400ないよ、300位か・・・
さ 100からでしたか、すると451か2くらいでしたね。350本位。ベルサールなんて、101から183番、83本しかないのですから。僕は多分世界で一番ベルサール・ガルシアを売った人間だと思います。20〜25本は僕の手によって。
ま それって、延べ25本？
さ いや、延べではなくて。
ま そりゃ、すごいや。3分の1は商ったと。売ってないのもあるだろうから。
　 　
　 （しばしブレイク）
　 　
ま マーチンの初代：クリスチャン・フレデリック・マーチンというのはドイツのマルクノイキルヘンの生まれでね、
さ ああ、ワイスガーバーの、
ま そうそう、それでウィーンに出てヨハン・ゲオルグ・シュタウファーに弟子入りしたんだ。19世紀のはじめにアメリカに移住するんだけれど、原点はウィーンにあるんだね。だから、アメリカでも初期の型はシュタウファーそっくりだよ。
さ そういえば、シュタウファー・モデルってありますね。（「ギターズ」236ページ）
ま ところで、新橋に［H］というてんぷら屋があってね、創業天保2年というから東京一の老舗。
さ 天保2年というと
ま 1831年かな。マーチンがアメリカに行く2年前。
な 幕末？
ま 幕末よりも少し前。
さ 天保の大飢饉ってありましたね
ま うんあった。
な トーレスのころ？
ま トーレスはまだギター作ってない。
さ じゃあ、ラコート（1772〜1842）やパノルモ（1785〜1855）それからソル（1778〜1839）のころだ。
な へええ、ソルは幕末よりも古かったのですね・・・
ま そうだよ。
な

いや、考えてみるとそうなんですけど、なんだか幕末っていうとすごく昔のような気がして・・・それに比べるとソルはずっと身近な気がしていました。
ま ・・・ところがね、この天保2年創業の店が、一昨年から見なくなった。なくなってしまったらしい。
さ どうしたんでしょう、跡継ぎがいないとか
ま どうなんだろうね、跡継ぎがいないからというような小さな店ではなかったけれど・・・詳しくは知らない。ここの名物は直径15センチ、高さ7センチくらいのかき揚げでね
な え！そんなに大きい。
ま うん、芝えび・小柱・三つ葉でできていて、これの載ったかき揚げ丼が名物。10年以上前に一度食べた。
か おいしいですか？
ま それはもう、おいしい、でもね何しろすごい分量だからやっと食べた。その好き嫌いは別にして文化財がひとつなくなったような気がして残念だね。
か 名古屋にとんかつ八千代という店があって、とってもおいしかったのですけれど、これも閉めてしまったのですよ。
さ

うん八千代、あれはおいしかったね
（二人の名古屋人は遠くを見る目つきとなる。）
か 東京のとんかつ屋さんとはまたちがうのでしょうけど
ま 衣はどんな感じ、パン粉は細かい？
か すっごく細かい。
ま なるほど、そういう方向か。
か そしてきつね色に揚げる。東京のは白っぽいでしょう。
さ あれはごま油じゃないね。
ま 名古屋で思い出した。荒井貿易にところで、ギターのうまい人いたでしょう。加藤操さん、その後、村松操さんか・・・
な どなたですか？
さ 伝説の女流ギタリスト。
な ネット検索では？
さ 出てこないと思うよ。荒井貿易の受付のお仕事をしていたのだけれど。
な えっ、ギタリストではないのですか？
さ いや、普通の女性。名古屋っていうのは不思議で、皆二足の草鞋をはくんだよね。ギタリストでありながら、薬局やっていたりとか、マンドリンで日本ですごい優秀だった南谷博一さんみたいに。
ま 中野二郎さんなんかは？
さ 本職は違います。名古屋って、結構そう。音楽は仕事でなくてという。
ま 中野二郎さんはギターに関してはおそらく出費の方が多かったと思うよ、すごい楽譜だもの。
な 確かにお名前はよく見ます。
ま 今みたいな時代じゃない時に、外国に楽譜を注文してとるのだから。部屋がいっぱいに埋まったていたと。
さ あの当時、僕がちょうど高校生だった頃、荒井貿易というのは、発信地だったのです。東京のギタリストも皆、荒井貿易に輸入譜を買いに来たのです。
ま 安達先生もそうだって、ＨＰに書いてあったね。
さ 僕なんかも学校のすぐ近くだったし、毎日の様に、楽譜は自分の物の様にして毎日の様に引っ張り出して弾いていました。
ま 弾けば覚えるからな（笑）
さ そう、ここにね（頭を指す）、当時コピーなんてまだ無かったし。
ま コピーなんてしたら、逆に高くなった。
な え〜そうなんですか？
ま そう、一枚50円位。
さ そう、あの頃のコピーは、まだ灰色の厚い紙で・・・だんだん色が薄くなって行くんですね。そこで輸入譜いっぱい弾いて、村松さんが教えてくれるのです。
ま 僕より10才位上だったっけ？
さ 昭和16年のお生まれですね。
な リサイタルとかは？
ま ああ、やっていた。大坂のコンクールで優勝していて、すごい人でしたね。当時の僕の師匠や、今現役の先生達も村松さんに教わっていました。当時の先生達と比べても大人と子供ほど違っていましたね。それくらい凄かった。そんな人がいたんだ。
な すごい伝説ですね。
ま 見た目は普通のおばさんなんだけど。
さ すごくさっぱりとした男の様なカラッとした性格の、でも口は悪いよ。ばりばりの名古屋弁で「ヘタだね〜」って云うの。僕も云われた・・・女の腐ったようにチャラチャラ弾いてんじゃないよ、なんてね。豪快な人だった。ホセ・ルビオを使っていましたね。
ま ルビオの最初の輸入元も荒井貿易だった。
さ やはり、ジェントル・アライが・・・今でもそうですけど、かなりの海外の製作者が日本人の商社で信用しているのは、荒井社長です。ギターの話をしてギターを買うのは荒井さんだけだからと。一番信用があるのです。
ま ラミレスだってそうだし、ほとんどあそこからスタートだものね。荒井貿易が最初に輸入した。
さ ホアンパラーというオリベなどを日本に紹介した人なのですが、当時よく会いましたね。荒井社長はもともとギタリスト志望だったですからね。
ま

仕事にしなかったと云うことか、別の意味で仕事にした。
アリアっていう喫茶店もあったね。
さ 毎日の様に行っていました。
ま こちらでいうアランフェスみたいなものかな。
さ アランフェスよりはるかに広くて、サロンコンサートもできたのです。そこで発表会もやったし、月に１回、芳志戸さんがマスタークラスをやっていて、松田二朗と芳志戸さん、アリアコンサートといって夜いろいろな人を呼んでコンサートをやっていたのです。
ま いいね、それは。
さ そこでクリストファー・パークニングとかマリア・ルイサ・アニードとか、みんなそこで会っているのです。

・・・つづく・・・
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