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◆ 第9回 | 主なテーマ | 引き続き材の話 |
「な」がベレサール・ガルシアのヘッド付近を裏側から見ている |
さ
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材料、上の方を見ているの? |
な | ええ。 |
さ | ネックはどうか、マホガニーかセドロか |
な | わかりませんねぇ。 |
さ | マホガニーかセドロは、判らないね。記憶違いでなければ、昔は最高級はマホガニーを使うとなっていたと・・・ |
な | ホンジュラス・マホガニー。 |
さ | セドロのは安いというイメージがあったのですけど。でも、今井さんによると軽くていいセドロだったら、セドロの方がいいと。 |
ま | 軽い? |
さ | 軽くて固い。 |
ま | あれ(セドロとマホガニーは)、同じ種類なんでしょ。 |
さ | セダー? |
ま | セダーって杉という言葉だけど、植物的に云うとね、 |
さ | スギ科? |
ま | いや、センダン科。どちらもセンダン科だよ、セダーって云うのは、それを見たスペイン人が間違えて名前をつけてしまったんじゃないの。で、マホガニーはホンジュラス・マホガニーって云うね。 |
さ | マホガニーの方が多分密度というか、比重は・・・ |
ま | で、セドロの方がキューバとか、あの辺りにある、だから産地違いという程度の事では。 |
さ | インディアン・ローズウッド、ブラジリアン・ローズウッドみたいな。 |
ま |
そう、でもそれより場所は近いでしょう。葉巻のケースだったかな、それはセドロに限るって聞いた事がある。 |
さ | あっ、もうそういう・・・ |
ま | そう、分類に入っている。だからもう、そんなに勝手に流通しない。 |
さ | 松井さんなどはランクがあって、35万クラスはマホガニーですね。ネックも作ってもらっている、その上のクラスはセドロです。 |
ま | マホガニーは何と云っても家具でしょう。小説なんかでも、よく出てくるよね。マホガニーのテーブルに、とか。マホガニーの箱を取り出した、とか。ヨーロッパ人がみんな消費したんだ。それに比べればネックなんてね。 |
さ | 百万本作っても大したことないですね(笑) |
ま | それで、マーチンなんかはセドロとは書いてないね、マホガニー。 |
さ | ああ、マーチンはマホガニーですね。ケヴィンは何でしょう? |
ま | これが判らないんだよね。 |
さ | ちょっとメープルっぽい虎目があるでしょう? |
ま | だけど、ああいう縞のあるセドロも聞いた事がある様な気がする。仕様書が来たら調べておいてよ。 |
さ | そうですね。 |
ま | (マーチンの資料から)これはね、ネックマテリアルは、ソリッド・ジェニュイン・マホガニー。ジェニュインだから本物だよ、と。 |
さ | 本物、ホンジュラス・マホガニー。 |
ま | そのことだろうね。 |
さ |
この(ケヴィンのこと)バインディングね、あれはメープルではないと思うのですが、ある時、製作者が同時に作っていてメープルで鉢巻きをすると確実に音が変わりますね、そう思って話をしたら、今井さんも松井さんもそう言っていました。 |
ま | ほう、あのバインディングだけで? |
さ | ええ、バインディングをメープルにするだけで音が柔らかくなるのです。 |
ま | ほーう。 |
さ |
同じに作っているんですよ、 |
ま | 鉢巻きでねぇ〜。角っていうのが・・・変わるのかねぇ〜。 |
さ
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同じ製作者でですね。 |
(「な」がセドロのページ検索、「木材詳細図鑑」を発見) | |
な | 出てきました、すごいページですね、スパニッシュ・セダーと書いてあります。 |
ま | センダン科って書いてない? |
な | センダン科です。 |
さ | ケヴィンのこの前の鉢巻きですけど、たしかメープルではないですよ。 |
ま | これとも違う? |
さ | そうです。 |
ま | これは細かい木目が見えるし。 |
さ | いろんな材をケヴィンは使うのだな、と。 |
ま | 僕のには、バーズアイ・メープルがついている。今井さんがバーズアイをあそこに使うのは、とても難しいと言ってた。そう言われたので、仕様書を確認してみると、やはりバーズアイだった。難しい事をやっているんだよ。確か、佳織ちゃんの大きなポスターで、どのロマニロスかは判らないけど、それがやはり縞々が見えたよ。 |
さ | ああ、古いロマニロスですね。 |
ま | そう、ラベルが文字だったやつ。 |
さ | 「ま」さんのメンヒはメープル? |
ま | 違う、ローズウッド。 |
さ | 70年代のメンヒによくありましたよね。白い鉢巻きが・・・ |
ま |
あれ、何だったのだろう、素材。 |
さ | 白いけどメープルでは無いような気がします。 |
ま | 縞模様見えないよ。かといって木目も見えない。 |
さ | う〜ん、確かに。 |
ま | これ(ケヴィン)はスプルースみたいに木目が見えるじゃない、 |
さ | ありますね。 |
ま |
これは(裏側の鉢巻)メープルの様な気がするけど。表側は違うね。表面板に使うのと似ている様な気がするね。 |
さ | 仕様書が来たら・・・ |
ま | このケヴィンはとてもいいねえ。欲しくなっちゃうな。
このアグアドも、まだ売れてないとは・・・ |
さ | はい、いいのですけどね。 |
ま | 65年だった? |
さ | ええ。 |
ま | こう見ると、オットーさんのハカランダはあまり綺麗でないね。しみがあるように見えてしまう。 |
か | 黒ければ、黒いほどいいとか、そういう事はあるのですか? |
ま | 黒いのはいいですよ。黒いのと、明るい色でも細かいのが沢山入っているのがいいみたい。 |
さ | 今日は、たまたま色の濃いのが揃っていますね。かなり質が。
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ま | うん、いい。 |
さ | 大体こんな様な感じが多いですね(パウリーノ・ベルナベ) |
ま | これの(パウリーノ・ベルナベ)中心部あるでしょう? 全部こうだとかなりいい材料だね。 |
さ | うねうねがなくてね、全部が、 |
か | ああ、柾目っぽくなっている、 |
さ | まあ、なかなか無いけどね。 |
ま | これが、云ってみればそんな感じ(ベラスケス57年)。 |
か | ああ、全部がこういう。 |
ま | もうあんまり残っていないと思うけど。 |
さ | ええ、こういう材自体がね。 |
か | 松井さんのは、結構この胴が。 |
ま | うん、それいいですよ。かなりいい。 |
か | だからアコースティックの人たちが感動するのですね。 |
さ | そう、これはもう・・・ |
ま | アコースティックの人は、模様がこう(縞がやや広がり)で、色合いがこう(茶・黒のほかに緑がかってっている)いうのが好きなんじゃないかな。 |
か | なるほどね、この辺なってますね。 |
さ | あまり綺麗に柾目だと、喜ばないかも知れない。 |
ま | このケヴィン、アグアドあたりの黒は喜ばないかも。そっけないと。 |
か | そうか、そういわれて見れば。こうして見ると、この松井さんのはいいですね。さすがに松井さんが石川さんの為に作っただけの事はありますね。 |
さ | そう、とっておきの。まあ、今、日本でいい材料を持っている人というのは限られてしまっていますしね。 |
ま | そうだろうね。河野工房には、まだまだあるという話だけど。 |
さ | 黒澤さんとか、今井さん。日本にいいと云われる材料が入ると、まずこちらの製作家たちが選んで、次々と、おりていくのです。今井さんは本当に沢山お持ちです。もう一回製作家人生できるくらい。若手で頑張って作っている人たちは、なかなかいい材料が手に入らなくて苦労していますね。ハカランダようやく3セット寝かしています、という若手が多いですよ。 |
ま |
その3セットを使った時にいいのができるのか・・・ |
さ | やはり数を作らないと判らないですね。 |
な | 同じ仕様でもね。いいのができるとは限りませんしね。 |
ま |
あと、材料でも横と表と裏との関係と組み合わせ、作り方、設計のね、全部の兼ね合いが。 |
さ | いっぱい作っている今のトップの人たちが、いまだに判らないと仰いますよ。予想はできるけど、弦を張って音を出すまで判らないと。 |
ま | O・ヘンリーに「うしなわれたコンゴウシュ」っていうのがあるでしょ? |
か | O・ヘンリーはいくつか読んでいますが、それは知らないです。コンゴウシュ? |
ま | 混合酒、つまりカクテルの事(The Lost Blend)。 |
さ | ああ、カクテル。 |
ま | 何と何と何を混ぜて作って、それを飲むと、勇気がみなぎってくるっていうカクテルがあるのだって。ただ、それの比率を忘れてしまった・・・ |
さ | ああ、なるほど。 |
ま |
二人組の山師がいて、一生懸命思い出そうとして、何度もやってみるけどできない。そこで、ここに一組のカップルがいて、男性の方が内気でなかなか告白できない、女性はそれを待っている。ある時やっとそのブレンドができたんだけど、できたとたんに作った二人が浮かれて大騒ぎしてみんな壊してしまった。そこにちょっとだけ残っていた酒をなめた男は急に積極的になって、もの申したんだって。女性の方が「あなた、いつからそんなに積極的になったの?」という所で終わるんだけど。短編だけどね。 ・・・つまり、何かの組み合わせがあるんだよ。 |
さ | 偶然のなせる技という・・・ |
ま |
もう一度再現しようとして、できるかどうかという・・・ こんな経験はないかな。コーヒーの豆を何種類か開けてて飲んでて、最後に残ったのを、まあいいや混ぜちゃえって、そしたら何だかすごく美味かったって、でも何をどれ位の割合で残っていたのか、入れたのかっていうのが、もうわかんない・・・二度と再現できないって云うような・・・楽器にもそんなのがあるかも知れないよ。 |
さ | あ、正にね。 |
か | 奇跡の一本っていうのが。 |
ま | 何でこれができてしまったのだろう、というようなね。 だから、構造を変えていって、何年か後に・・・例えばベラスケスみたいに以前と同じ大きさに戻したでしょう。 |
さ | そう、20年位たって。 |
ま | でも同じ音にならないよね。 |
さ |
なりませんね。 |
ま | 材料も変わっているけど、あれはもう、作り方が違っているんだよ、その人の作り方が。20年経って、もう変わってきているんだよ。 |
さ | サイズとか全部同じにしても全然違う訳ですね。 |
ま | その組み合わせが崩れてきているから、もうサイズを同じにしたのでは、同じ音にはならない。フレタもそうかも知れない。フレタは少しずつ変わってきてはいるけど、昔の様に鮮明な音ではない。いま新品のフレタってあるのか知らないけど。 |
か | まあ、生き物っていうことですよね。 |
さ | 同時に2本作る人がいて、必ず違いますよね。同じに平行して作っているというのですが、不思議です。 |
ま | うん、違う。そうして並べて見るからはっきり判るんだよね、違うと云うことが。 |
さ | そう、近いからよけいに違いが判る。 |
ま | 全然傾向の違うものを作ってくれば、こちらもいいけど、こちらもいい、となるのだけどね。 |
さ |
同じ傾向だとすぐに判ってしまいます。 |
ま | でもそれが5年経って、同じ差を保っているかどうかは判らないけどね。 |
さ | そうですね、それはその後の生活環境で・・・オーナーで変わりますからね。 |
(ケヴィンを見ながら) | |
ま | ケヴィンというのは見た感じ、いかにも物々しく無いところがいいよね。さりげないじゃない? 頭もあんな感じだし、普通の楽器に見えてしまうところが。ハカランダだってこれみよがしで無いし。ケヴィンがこういうハカランダを使ってきたら、性格が変わったかと思っちゃうよね(笑) |
さ | こういう材を使うところが、彼のセンスでしょうね。(感嘆) こういうハカランダっていうのは、選びたくても無いでしょうね。どうなってるのかな、って思って。 |
ま | でも、世の中の人は意外とこういうの(模様の華やかな)が好きだとすると、選ばれなかった中にあるとか。そんなことは無いかね? |
な | う〜ん、ごっそり選ばれた後にこの手が残っていたとか。 |
ま | ハカランダっぽくない・・・ |
な | いつか某所に行ったときに、向こうの木材置き場の写真を見せてもらった事があるのですが。 |
さ | ああ、ブラジルの? |
な | ハカランダの大木がゴロゴロしていて、チョークで名前が書いてあって、場所は絶対に云えないけれどもって。まだあることはあると。 |
さ | それ売り物なんだものね。 |
ま | 丸太? |
な | 丸太というか、四つ切りにした |
か | (まぐろの)サクみたい・・・ |
さ | あるんだねぇ〜。 |
ま | 鋸で切ったままのでこぼこの状態でわかるというのは、やっぱり我々素人には判らないね。 |
さ | 河岸のまぐろみたいに尾の所が切ってあって、そこを見て判断するみたいな・・・ |
な | 確かに大きな買い物だから、はずれたら目もあてられない。 |
ま | 本まぐろのいままでで一番高い記録は1本1千万円以上らしいね。もちろん揚がった数が少ない時だったろうけど。数年前の初せり。その仲卸しは潰れたそうだよ。記録保持者は潰れてる・・・ |
さ | やっぱりこういうものばかり追ってはいけないと・・・ タッキさん(アンドレア・タッキ)も丸太でいろいろ買っているのです。サクで。 |
ま | トーレスの本に載っていたけど、まずはこう切るのでしょう、材木って(円形を直角に4つ割り)。するとここの所で柾目っていうのは、ここしか取れないって事だよね、全部柾目でとろうとしたら。だからこの木を、これが10センチあったとして、1センチずつ10枚取っていったってダメなんだよ。これで中心に向かってしか取らないのだから。あくまでも完全柾目だけ追求していくと、少ししか採れない。 |
さ | すると、製材された柾目の物を買った方が、効率がいいのではないかと云う事ですね。丸太で買うより。 |
ま |
塊でこれだけあるから、しばらく持つだろうということも無いらしい。 |
さ | タッキさんもよく写真を送ってくれるのですが、メープルなどもこれが今から僕の買う樹だって。 |
ま | これは(前記)極端な絵の描き方だと思うけど、本当はこれが半径が大きなものだったら、ここで1ミリ位にしか見えないのが、じつは数センチのものかも知れないし、だから相当数採れるのかも知れないけど。これだけの中から、ここでとるか、ここでとるかによってこれだけしか採れないっていう。 |
な | もう少し考えようがないのかと思ったりしますが。 |
ま | 全部この方向(水平方向)から採っていけば採れそうな気もするけど。 |
な | この図のとおりだと中心が使えない物が沢山出てくると。 |
ま | これは完全に柾目をという夢の様な事を言っているだけど。でも実際に見たところでは、外側の方が木目が広いでしょう? |
さ | ああそうですね。そういう風に作ります。 |
ま | 楽器で外側の方が木材の内側なんだ、 |
な | 外側の方が内側? |
ま | 木材の内側のほうが半径が小さいから、少しずれると斜めになって年輪が広く出るんだよ。だから完全に中心の方から、という程ではないのだね。 |
な | 樹自体はどうなんでしょうか。年輪は等間隔でこのように並んでいる? |
ま | 等間隔で並んでいるとすれば、真ん中に近いほうが斜めに切るから・・・ |
な | やっぱりそうですね。これはやっぱり訳があるのでしょう? |
ま | そうだろうね、 |
な | 強度の問題でしょうか、響きの問題ですか? |
ま |
どうなのでしょう・・・ |
な | ケヴィンは、ケヴィンはあんまり木目の幅変わらない。 |
ま | 塗装してないから見にくいんだよね。 |
さ | オイルフィニッシュだからね。 |
ま | (近くに寄って)あまり変わらない? ああ、本当だ。って言うことは、純柾目か。 |
な | やはり非常にいい材料を使っているという、 |
ま | ストラディヴァリウスのヴァイオリンなんて、木目はこんなに狭くないよ。結構2ミリ位間隔開いている。 |
さ | 松井さんのも間隔素晴らしいですね。相当です。 |
ま | これ横に斑が入っている。 |
さ | 斑がね、これ綺麗ですよね。 |
ま | ロペスに似てるね。 |
さ | ロペスもこういう感じ、ベルサールのこの材もベルサールらしいですね、横と云うよりこういう、うねうね・・・ |
ま | あったかな〜、 |
さ | 「ま」さんのもありました。 |
ま | あ、そうですか(笑)僕のも20何本の中に入っている・・・ |
さ | あ、そうです・・・ |